こんにちは。フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。
ただいま「平家物語」に夢中です。
去年5月から木ノ下裕一氏(木ノ下歌舞伎主宰)によるzoomを使った月に一度の「平家物語」講座を受けているところに、今年1月からアニメの放映がスタートし、私の日々は思いもよらず「平家物語」祭り状態と化しているのです。
講座のテキストになっているのが講談社学術文庫の「平家物語」で、十三巻分の原文と現代語訳、解説が分厚い文庫本4冊にまとめられており、講座開始からこれを読み進めています。
現時点で平家の栄枯盛衰を描いた十二巻までを終え、建礼門院(平清盛の娘、高倉天皇の皇后、安徳天皇の母)の余生が描かれる最終巻を読んでいる最中です。
zoom講座の方では木曾義仲が源義経軍に討たれる九巻を、アニメの方では以仁王の挙兵や橋合戦を描いた四巻を取り上げたところで(第5話)、私の中で「平家物語」に描かれている時間が3つ同時に進行している状態です。
混乱をきたすかと思いきや、さにあらず。講座で解釈を深め、アニメでビジュアル化されることでよりわかりやすくなっています。
まさか2022年を生きながら800年前に成立した物語にこんなにも取り込まれるとは予想だにしませんでした。
もともと歴史が好きで、高校時代に源義経を描いた新春特番を観、原作を読んだのがきっかけで歴史小説にはまりました。このドラマ、徹頭徹尾判官贔屓の目線で描かれており、平家も源頼朝も悪役の位置付けでしたが、アプローチの違う物語を読んだり観たりするうちに、誰かに肩入れする見方ではなく、何が起きて時代が動いていったのかや登場する人たちの生き死にに着目する見方へと変わっていきました。その時代のうねりの果てに今があると思うと、なかなかに感慨深いものがあります。
数年前、高松で取材があったのをこれ幸いと自腹で一泊余計に宿泊し、高松平家物語歴史館(今は閉館)を訪れました。平家物語の名場面たちが蝋人形で再現されているという私設ゆえの特殊性と情熱のこもった博物館でした。大興奮でたっぷり時間をかけて巡ったのを覚えています。
その足で屋島を訪れ瀬戸内海を見下ろしながら、ここが赤旗白旗を掲げた船で埋まったのかとめいいっぱい想像を試みたことも懐かしい思い出です。
白洲正子の「謡曲・平家物語紀行」の存在を知ったときは、古本でしぶとく探しました。能で描かれる「平家物語」を知ってから能楽堂に足を運びたかったのです。
初めて観た文楽は「平家女御島」で、平清盛への謀反を企てた罪で鬼界ヶ島へ流されその地で生涯を終えた俊寛の物語です。号泣でした。
絵本「俊寛」は、とても美しい絵で描かれているゆえに哀切極まりない俊寛の運命が際立つとでもいうのでしょうか。時々見返します。
おととし亡くなった安野光雅氏による「繪本平家物語」は書き下ろしの文章も入っていて読み応えがありました。
宮尾登美子版「平家物語」は、平家の女たちをふんだんに描いた作品で、この視点で「平家物語」を追うのも興味深いものでした。
舞台では「子午線の祀り」や「義経千本桜〜渡海屋・大物裏〜」(木ノ下歌舞伎)を観て、劇作家ごとに異なる「平家物語」三次元化の表現を楽しみました。
かようにこれまで「平家物語」ネタというだけで観たり読んだりしてきたものがいくつもありました。見落としているものも多々ありますが、「平家物語」の多様性を感じずにはいられません。そこにアニメ化が加わり、テレビを観ることを忘れていた自分が久しぶりに毎週の放映を楽しみにしています。
アニメ版の主人公はびわという名の女の子で、右目で未来が見える特殊能力を持っています。それゆえ、今共に暮らし笑い合う平家の人たちがじきに滅びることも見えてしまうのですが、平家一門が生きた時代のずっと後を生きている私たちもまた彼らが滅びることを知っているわけで、この「知っている」という点においてびわとシンクロします。彼らと同時代を生きる彼女は、見えているのにどうもできないことを嘆くのですが、私たちは「盛者必衰の理」として、さもありなん歴史の流れの中ではこういうことが何度も繰り返されてきたと受け止めています。
一方で、子の誕生を寿ぐ気持ちや父の死による哀しみ、人を恋うる気持ち、家族愛、神仏への祈り、出世欲、有頂天・・・そうした感情の領域は今を生きる私たちと何一つ異にするものがないこともまた受け止めます。
ああ、彼らも必死に生きたんだな、運命を受け入れたり抗ったりしながら生きて生きて死んでいったんだなと、その一点に気持ちが集約していくようです。
今気になっていることは、この「平家物語」が800年の間どんなふうに感じ受け止められてきたのかという点です。私が夢中になって原文やアニメ版を追いかけているように、例えば江戸時代の人もその時代の表現の「平家物語」を追いかけたんだろうか。その時々の為政者たちはどんなふうに平家の栄枯盛衰を受け止めたんだろうか。
「平家物語」、まだまだ気になり続けそうです。