みなさん、こんにちは!
常識に捉われないアイデアと大胆な行動力を持つ「世界を明るく照らす稀な人」を追いかけて東奔西走、稀人ハンターの川内です。
11月末まで季節外れの汗ばむような陽気が続いていた東京も、ようやく冬の気配が色濃くなってきました。僕は冷え込みが厳しくなってきても家でぬくぬくしていたいと思うタイプではなく、オールシーズン、いつでも外に出かけます。
冬には冬を感じる場所に行くのが好きで、犬ぞりに乗ったり、お祭りで火が付いたわらを振り回したり、日本中でいろいろな体験をしてきました。今回はそのなかでも、何年も前から取材したいと思っていて、今年(2022年)2月にようやく願いが叶ったとっておきのイベントを紹介します。
自宅から7時間かけて目的地へ
その場所は、北海道の十勝管内鹿追町にある然別湖。標高810メートルにあるその湖は、冬になると完全に凍りつきます。その氷の湖上で開催されているのが、「然別湖コタン」。コタンとはアイヌの言葉で「集落・部落」を表します。
1982年から始まった「然別湖コタン」は、1月末から3月の半ばの厳冬期だけ、氷で作られたバーや雪のブロックで建てたイグルー、氷上露天風呂などが現れる期間限定の集落なのです。
羽田空港から帯広空港に飛び、空港からバスに乗って、帯広市内のバスターミナルへ。そこからさらに然別湖行きのバスに揺られて、約90分。早朝5時半に家を出てからちょうど7時間後の12時半に、目的地に着きました。
この遠さがなかなか足を運べなかった理由のひとつだけど、実際にはワクワク感が勝ってそれほど長い道のりだとは感じませんでした。
湖畔に建つロッジ風の建物の1階にあるのが、然別湖コタンの企画、立案、運営を担っている然別湖ネイチャーセンター。ここで、ウェアやシューズなどをレンタルできるから(有料)、手ぶらで来てもヘッチャラ。僕はこの日のために気合いを入れて、完全防備グッズを持参しました。
雪と氷のブロックだけで作られたアイスバー
入場料は500円(安い!)。視界が開けたその先に見えたのは、真っ白な雪の平原! その上にポツン、ポツンとイグルーが建っています。そうそう、イグルーとはイヌイットが狩りに出た先で雪のブロックを重ねて作る簡易住居のこと。かまくらよりもしっかりと作られた雪の小屋というイメージです。
それにしても! なんか違和感のある景色だなあと思って眺めていたら、気がつきました。普通の雪原には草木が生えていて、そこに雪が積もってデコボコしているものだけど、凍った湖の上にはなにもない。だから、向こう岸の山までスコーンッとまっ平なんです。
この日は快晴で、その眺望がすごく開放的で気持ちいい! 外に置かれた温度計を見るとマイナス11度。でもテンションが上がっているせいか、それほど寒く感じませんでした。
然別湖コタンではスノーモービル、スノーラフティング、クロスカントリースキー、ガイドウォークなどのアクティビティが用意されています。
僕が最初に向かったのは、コタン入口にあるアイスバー。寒い日には、グッと一杯やりたくなるじゃないですか! アイスバーの店内は、雪と氷のブロックだけで作られているとは思えないほど手の込んだ内装でビックリ! メニューを見ると、お酒はもちろん、ホットドリンクも充実しています。
モコモコに着込んだスタッフさんが3人いたので、「ここは日本一寒い職場かもしれませんね」と尋ねると、「このなかは、外よりも暖かいんですよ」と素敵な笑顔で、僕が注文したオリジナルカクテルを注いでくれました。
氷でできたグラスに口をつけると、唇がヒンヤリ。でもお酒が身体に流れ込んで、内部はホカホカ。不思議な感覚です。グラスがどんどん溶けていくのも、面白い。アルコールのおかげで、外に出ると、冷気が気持ちいいぐらいでした。
氷上露天風呂でドギマギ
次に向かったのは日本で唯一、凍結した湖上に設置された氷上露天風呂! ここの大きな特徴をひとつ挙げましょう。それは、湯船ひとつの混浴ということ。しかも、水着の着用は義務付けられていない。どういう選択をするのかは、あなた次第。いやいや、さすがにみんな水着でしょう、と思っていたら、先に入っていたカップルが水着を着ていなくて、かなりドギマギしました。
「僕もおじゃましていいですか?」と声をかけると、女性のほうから「いいですよ~」と返事があったから、遠慮なくジョイン。ちなみに、コロナ前は特に人数制限はなかったそうだけど、今は同時に入浴できるのは最大5人までに定められています。マイナス10度前後の脱衣場はビックリするぐらい寒いから、裸になる前に何人入浴しているのか確認したほうがいいです。
外がそれだけ冷え込んでいると、温泉もぬるいんじゃないか? と懸念する人もいるでしょう。それが、なんともいい湯加減! 湖畔のホテルからパイプを通してアツアツの源泉を常に注いでいるから、外気で冷やされても42~45度前後に保たれているのです。
そして、湯船から見えるのは、足跡ひとつないまっさらな雪原と雪山。なにも遮るものなく、手つかずの絶景をパノラマで眺められるのは、間違いなく然別湖コタンだけ。いつまでもボーっと眺めていたくなる景色です。
ちなみに、温泉の隣りには足湯もあります。こちらは靴と靴下を脱いでお湯に足を入れるだけだから、気軽に楽しめます。取材時には、女性がふたり、足湯をしながらくつろいでいました。
氷のベッドの上で眠れますか?
アイスバーと氷上露天風呂ですっかりいい塩梅に仕上がった僕は、イグルーの宿泊施設「アイスロッジ」に向かいました。実は取材の日、ここに宿泊したかったんだけど、連絡をした時点ですでにシーズン中(1月29日から3月13日)すべて満室でした。それほど人気のイグルーがどんなところか、見たかったのです。
アイスロッジで迎えてくれたのは、然別湖ネイチャーセンターの母体、北海道ネイチャーセンターのチーフマネージャーで、然別湖コタン副実行委員長の石川昇司さん。地元出身で、1992年から働いているベテランです。
イグルーのなかは、すべて氷でできています。もちろん、ベッドも。宿泊者は、そのうえに雪山登山で使用する極寒用の寝袋を敷いて寝ます。そう聞くと、寒さに耐えられるか不安になる人もいると思うけど、心配無用。
「イグルーには、湖水を汲み上げてシャーベット状にした雪を箱に詰めて作ったブロックを使います。雪で作った発砲スチロールみたいなもので、空気がたくさん含まれているので、保温性が高いんです。外がマイナス30度になっても、このなかはマイナス5度前後に保たれるんですよ」
極寒用の寝袋はマイナス20度、30度でも快適に眠れるように作られているから、マイナス5度なら安心! 試しに僕も宿泊者用の寝袋に寝させてもらったら、むしろ汗ばむぐらいの温かさ。これなら、朝まで熟睡できそうです。
石川さんによると、気温が最も下がるのが夜明け前で、運が良ければ太陽が出てくるタイミングで空気中の水分が凍ってキラキラと光るダイヤモンドダストと、このダイアモンドダストに太陽光線が反射して浮かび上がる「太陽柱(サンピラー)」が見えるそう。
転機になった『ゆく年くる年』
石川さんに然別湖コタンの成り立ちについて話を聞いて、驚きました。
「もともと、湖畔のホテルの従業員の方が、冬になるとこれだけ平らで広いスペースができるのに、誰も使わないのはもったいないと思っていたそうです。それで、たまたま意気投合した帯広の飲食店経営者と一緒にかまくらを作って、遊べる場所を作ろうっていうのが始まりです」
1980年、大人ふたりが、好きなだけ飲んで騒げる湖上で遊び始めました。それを聞き付けた仲間たちも、集まるようになりました。転機になったのは、1981年の年末。どこで噂を聞き付けたのか、大晦日に放送されるNHKの『ゆく年くる年』が中継に来たそうです。
それを見た鹿追町の職員から「これは面白い! 町もお金を出すから人を呼べるイベントにしよう」とオファーが来て、町公認になったのが1982年。それから商工会の青年団も加わり、規模が大きくなりました。町の公認イベントになって2回目には、氷上露天風呂が登場したそうです。
イベントの進化と合わせるように、人気もうなぎのぼり。2019年には1日最大1000人超、約1カ月半の開催期間中に4万8000人が訪れたといいます。人口5000人程度の鹿追町に、1カ月半で4万8000人が訪れるなんて、とてつもないインパクトですよね!
スノーモービルで爆走して凍える
仕事に戻る石川さんと別れた僕は、スノーモービルに乗ってみることにしました。1周1キロのコースを2周で、2000円。初めてだったけど、操作はそれほど難しくありません。スピードも想像以上に速くて、爽快!
でも、その日はマイナス11度。風速1メートルで体感気温は1度下がると言われているから、時速10キロでもマイナス21度。もちろん、スノーモービルはもっとスピードが出る。当然のように露出している顔面がヒリヒリし始めて、2周目のラストは痛いぐらいでした。
すっかり身体が冷えた僕が逃げ込むように駆け込んだのは、氷上露天風呂。2度目は先客がいなかったから、人生最速のスピードで服を脱ぎ捨て、お湯に滑り込みました。ひとりでのんびり温泉に浸かっていたら、身体がじんわりほぐれてくるのがわかりました。
最後に立ち寄ったのは、アイスバー。スタッフさんに「また来ちゃいました!」と挨拶すると、素敵な笑顔で迎えてくれました。一杯ひっかけながら、片道7時間かけてきたかいがあったなあとしみじみ思いました。
恐らく、然別湖コタンは来年1月末にまた姿を現すでしょう。気になる方はぜひ足を運んでみてください。未知の体験が待っています。僕も次回は家族を連れて行きたい!
稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。
ACCESS
然別湖コタン
北海道河東郡鹿追町北瓜幕無番地