皆さん、こんにちは! 常識に捉われないアイデアと行動力で「世界を明るく照らす稀な人」を追いかけている、稀人ハンターの川内です。
前々回は茨城県の笠間で開催されている日本三大奇祭のひとつ「悪態祭り」、前回は秋田県の角館の伝統行事「火振りかまくら」を取り上げました。ここまできたら、もうひとつユニークな冬のお祭りを紹介したい! ということで今回は、北海道有数の温泉地、層雲峡で真冬に12万人を集める「氷瀑まつり」について。
「観光客よりも従業員のほうが多い」冬を盛り上げる
旭川駅前のバス停で、いわゆる路線バスに乗っておよそ2時間。途中から山と山の隙間を通る道に入り、グングン進んでいった終点が、温泉地として有名な層雲峡です。
ちなみに、層雲峡のあたりは1915年(大正4年)に塩谷さんという人が最初の温泉宿を開いたこともあり、もともと塩谷温泉と言われていました。ところが1921年(大正10年)に明治の文豪、大町桂月が塩谷温泉を訪れた際、この地域の部落がアイヌ語で「滝の多い川」を意味する「双雲別(そううんべつ)」と呼ばれていたことを知り、「層雲峡」と名付けたそう。
標高600メートルの山間にある層雲峡は荒々しい山に挟まれた大渓谷で風光明媚、大雪山系のひとつ黒岳への登山口もあるため、北海道有数の温泉街として発展しました。
しかし、課題がひとつ。層雲峡観光協会の事務局長によると、雪深い冬は旅行者が激減し、「観光客よりも従業員のほうが多い」状態に。冬も層雲峡に来てほしい。町の人たちの願いを込めて始まったのが、氷瀑まつりでした。
第1回は1975年。立ち木に吹きかけた水を凍らせて作るアート作品「造形樹氷」を製作する北海道の高名な造形作家、竹中敏洋さんを招き、層雲峡でも樹氷を展示しました。そのため第1回の名称は「樹氷祭り」で、展示場所は駐車場、展示期間もわずか1週間でした。
雪ではなく、氷で造形する
この第1回が好評で、「氷瀑まつり」に名称を変更した2回目以降も来場者がどんどん増えていったため、祭りの規模も大きくなって、今では石狩川沿いに大小約30基の氷像が立ち並ぶように。会期も1月下旬から3月上旬まで開催され、その間に12万人の観光客が訪れます。
一部では「北海道三大冬祭り」とも呼ばれるまでになった、氷瀑まつり。ほかの2つとして挙げられるさっぽろ雪まつり、旭川冬まつりと大きな違いがあります。札幌と旭川は「雪」を使っているのに対して、層雲峡は「氷」。
造形しやすい雪と違って氷は準備が大変で、祭りが始動するのは前年の秋口。そこで実行委員会が立ち上がり、テーマや造形物のレイアウトを決めていきます。11月前半になると、連日10人ほどが集まり、2000本を超える北海道産のカラ松の丸太を使って、レイアウト通りに足場を組みます。その際、つららができやすくなるように、丸太と丸太の間に糸を張ります。足場が組み終わったら、河川敷に掘った8つの井戸から汲み上げて、ろ過した水を吹きかけます。ろ過するのが、とても重要なポイント。
「沢の水をそのままかけると汚れが残るので、黄色い氷像になってしまうんです。ろ過することで不純物が取れて、氷が青くなる。青い氷は水がきれいな証拠です」
水の噴霧は年が明けて1月の上旬頃まで続きます。つららが連なり、重なってできた氷の塊は思いがけない形になることが多いので、チェーンソーやつるはしで階段やトンネルの形に整えます。準備段階から完成まで、まさに層雲峡の住民たちによる手作りのお祭りなのです。
さっぽろ雪まつりよりいい!
僕が取材に行った2020年冬のテーマは「銀河系」。水が凍ったままの状態で人間の手を加えていない建造物は、不思議な形をしていて、荒々しさのなかにも自然の造形美を感じます。昼間の会場は、氷の建造物が青々とそびえたっていて、映画やゲームの「氷の世界」に紛れ込んだような気分。陽が落ちる頃からライトアップが始まり、会場が七色に染まって幻想的な雰囲気です。
会場のなかでひときわ目立つ巨大な氷の建造物は、宇宙ステーションをイメージしたもので、長さ120メートルのトンネルがあり、なかには氷を削った大小の作品がありました。氷のクマに抱っこしてもらったり、天使の羽を生やしたり、龍の口のなかに入ったりできたりと、来場者の「写真映え」を意識した展示で、「札幌から下道を走って5時間ぐらいかけて来た」という女の子二人組は、この展示が「さっぽろ雪まつりよりいい!」と真っ赤な頬で笑顔を浮かべました。
「トンネルのなかにあるオブジェで、たくさん写真が撮れるのがいいですね! 札幌は(雪像を)見るだけだから」
会場にはゴムチューブで滑る氷の滑り台やアイスクライミング体験ができる巨大な氷の壁など、酷寒の地ならではの遊びも体験できます。
特に僕の目を引いたのは、「北の氷酒場」。カウンターから座席まで氷で造られたバーで、お酒を飲むことができるのです。
そして、氷瀑まつりの目玉といえば花火。その日の夜はけっこう雪が降っていて、気温はマイナス7度と酷寒でしたが、打ち上げが始まる20時半には100人前後の観光客が集まり、花火を楽しみました。花火といえば夏というイメージがあったけど、冬の雪夜、キリッとした寒さのなかで観る花火はまた違う趣があるものです。
決して行きやすい場所じゃない冬の層雲峡のお祭りに、なんで12万人も? という疑問が解けました。氷瀑まつりからは、小さな子どもから高齢者まで、来場者みんなに楽しんでもらおう、思い出を作ってもらおうという心遣いと手作りの温かみが伝わりました。それが、駐車場の一角で始まった小さなお祭りが12万人を呼び込むようになった最大の理由だと思います。
稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。
ACCESS
層雲峡 氷瀑まつり
北海道上川郡上川町層雲峡 層雲峡温泉