常識に捉われないアイデアと大胆な行動力を持つ「世界を明るく照らす稀な人」を追いかけて東奔西走、稀人ハンターの川内です。
最近、東京はどんどん暖かくなり、日によっては半そで短パンで過ごす日もあります。まだ早いんじゃ!? と思われるかもしれませんが、僕は暑がりなんですよね(笑)。なので、めちゃくちゃ寒いところに行くと、むしろシャキッとしていい気持ちがします。
ということで、今回は春夏にぜひ訪ねていただきたいスポットをご紹介します。北海道の上川町にある世界でも珍しい、氷と寒さをテーマにした「アイスパビリオン」です。
ここの特徴は、なんといってもマイナス41度の世界を体感できること! ちなみに、1902年(明治35年)に北海道の旭川で記録した、日本の観測史上最も低い気温がマイナス41度です。なんでも知りたがりの僕は、それがどんな世界なのかを知りたくて、上川町を訪ねました。
「ミートテック」が役に立たず
アイスパビリオンは、旭川駅から車で50分、上川駅から車で10分弱のところにあります。1991年、館長の帆苅正男さんが私費を投じて建てたミュージアムです。なんで建てたの? という背景は後にして、まずはアイスパビリオンに足を踏み入れました。
外観からは、どういう施設かよくわかりません。電飾でキラキラした通りを進んでいくと、たくさんの防寒着が用意されているスペースが。薄着の人、寒さに弱い人にはここで防寒着を貸してくれるので、春夏でも安心です。
僕は冬場にたくわえたミートテックがカラダを守ってくれるので、手袋だけ借り、あとは都内で冬のシーズンにしている自前の服装、ダウンジャケット、トレーナー、防寒下着、下半身は温かい素材のズボン、防寒下着で臨みました。
館内を進んでいくと、「ここから先はマイナス20度」と書かれた宇宙船のような扉があります。それを開けると、目の前に現れる氷の世界! 室内にいるということが信じられないような、氷の鍾乳洞のようなスペースです。
千葉で育ち、スペインのバルセロナでの4年を経て2010年から東京で過ごす僕にとって、マイナス20度は、未体験のゾーン。でも、ぶっちゃけ、ギャーッサムイーっと騒ぎ立てるほどじゃないと感じました。取材ということで案内してくれているスタッフさんには悪い気がしましたが、「なんだ、それほどでもないな」と思ってしまいました……この時までは。
それからわずか数分後、露出している部分と手先、足先がどんどん冷たくなっていき、カラダのなかから寒さが込み上げてくるようになったのです。最初、それほど寒く感じなかったのは、急にマイナス20度の部屋に入ったため、カラダがビックリして、気温を察知する機能が瞬間的に混乱していたのでしょう。
唯一無二のアクティビティ
それにしても、この景色! 室内なので景色というのもおかしいのですが、圧巻です。館内の開けたスペース、アイスホールには大きな氷の山がそびえ立ち、周囲の壁も全面的に凍っているのです。どうやってこれを作ったのでしょう?
「開館以来、30年以上、毎日水をかけています。それが新しい氷になって、どんどん大きくなっているんですよ。この施設の氷の重さは、ぜんぶで1000トンあると言われています」
1000トン! ひとつの建物のなかに1000トンの氷があって、どんどん大きくなっているなんて! 日々成長して、もはや全体像が誰もつかめない、巨大生物のようなものかもしれません。
館内でのアクティビティも未知の世界で、驚きの連続です。まず、スタッフさんがタオルを濡らし、グルグルと振り回してほんの数秒後、棒のようにカチンコチンになりました。これで殴られたら痛いというレベルの硬さです。
次は、シャボン玉。「吹いてみてください」と手渡されたので、ふーっとすると、たくさん出てきたシャボン玉が足元に落ちても割れず、コロコロと転がり始めたのです!
凍り付いたシャボン玉はフワフワと柔らかく、触るとすぐに破けてしまうのですが、それにしてもシャボン玉の形を写真に収めたり、手のひらに乗せたりするのは不思議な感覚です。
さらに、こんなものも凍るの!? と驚いたのが、子ども用のTシャツとジーンズ。スタッフさんが音楽フェスでタオルを振り回す若者のように、濡らしたジーンズとTシャツをグルグル回転させると、その数秒後には、見事に冷凍されたジーンズとTシャツが自立していました。なんだか、透明人間っぽくて、ちょっと怖い感じがします。もし外に置いてあったら、「幽霊が出た!」と大騒ぎになりそう。
マイナス41度の世界へ
そして、メインイベントの「マイナス41度体験」。赤や青にライトアップされた怪しげな部屋に入ると、ボタンがあります。それを押すと、風速20メートルを超える強風が頭の上から吹き付けてくるという仕掛けになっています。風速1メートルで体感気温が1度下がるので、マイナス20度プラスマイナス20度強で、マイナス41度の世界を味わえるというわけです。
アイスパビリオンの入り口には、子どもたちが裸でマイナス41度を味わっている写真がありました。僕にもできるかな、と思っていたのですが、写真を撮ってくれるというスタッフさんがカメラを持ってスタンバイしていたので、とりあえずダウンジャケットだけ脱ぐことにしました(決してビビったわけではありません)。
いざ、マイナス41度の世界へ!
ボタンを押すと、ゴー!!!!! とすごい勢いで頭上から風が吹き出してきます。1、2秒もすると、それまでの人生で一度も感じたことのない冷気がカラダを包み込みます。写真を撮ってもらうんだから動きを止めなきゃと静止しましたが、ほんの数秒が限界。その後は黙って立っていられなくて、自然とその場で激しく足踏みをしていましたが、それも無駄な抵抗です。
トレーナーと防寒下着を貫通して、カラダが凍りつき始めている気がします。映画『アナと雪の女王』のラストで、アナの身体がパキパキッと凍りつくシーンがあるのですが、あんな感じ。
無意識に「おおおおおおおおお」という声が漏れます。もはや、「寒い」「冷たい」「痛い」という感覚じゃなく、カラダが発しているのは、「ここにいちゃダメ! 絶対!」という黄信号。人生のタイムリミットがそう遠くない感じがします。
強風は10秒で止まります。僕はピンポンダッシュする小学生よりも速く自分のダウンジャケットを置いた場所に駆け寄り、0.1秒で羽織りました。マイナス41度からマイナス20度の世界に戻ると、あれ、ここはそんなに寒くないなと感じました。恐らく、またカラダがビックリしておかしくなっているのでしょう。
スタッフさんに「どうでしたか?」と聞かれた僕は、「ヤバいです、マジヤバいです」としか言えませんでした。想像を超える体験をした時、ライターも語彙が乏しくなるのです。
なお、アイスパビリオンはおもてなしが行き届いた施設なので、このアイスホールのなかに「ホットルーム」があります。そこは暖房が効いていて体を温めることができるので、あなたが雪の女王になりそうになったら飛び込んでください。
年間30万人が訪れるように
僕はこの後、人工的に作り出されているスターダストなどを見て(キラキラ輝いていて見惚れた)、出口に向かいました。そこには売店があり、1000トンの氷の世界からいきなり現実に引き戻されます。アイスパビリオンは、僕の想像をはるかに超える驚きと寒さを体験できる施設でした。それにしても、館長の帆苅さんはなぜこの施設を作ろうと思ったのでしょうか?
「バブルの最後のほうに観光ブームがあって、なにか面白いことないのかとしきりに言われていてね。それで、北海道の風土、寒さ、雪をオンリーワンで表現しようと思ったんですよ」
帆苅さんは、考えました。日本の気候と人口分布を考えた時、いわゆる「雪国」に住んでいない人がだいたい7割。その人たちに向けて、「室内で面白おかしく寒さを体験できないか」と。
このアイデアが、大当たり! 1987年、アイスパビリオンの前身となる「実験館」を開くと、宣伝もしないのにお客さんが大挙して訪れ、3年目には、夏だけで十数万人が来館。
それで「こんなに関心持ってくれるなら、大きいの作っちゃえ!」と今の場所にアイスパビリオンを作ったのが、1991年。より本格的に氷の世界を作りこむとさらにお客さんが増えて、最大で年間30万人が訪れるようになりました。
「全国から自治体が見学に来ましたよ。寒さを体験するだけで、なんでこんなにお客が来るんだって(笑)。やっぱり、これだけ豊かな世の中だから、皆さん、なにか変わったことを体験したいんですよ。東京、大阪の人で毎年北海道に来るたびに必ず寄ってくれるリピーターが多いですね。なかには、1時間以上も館内から出てこない人もいるんです(笑)。オンリーワンだからこそ、35年前に実験館から始めたことが、いまだに喜ばれているんじゃないかな」
新型コロナウイルスの影響でここ2年は集客が落ち込んでいるそうですが、僕は本気でお勧めします。ようやくコロナも落ち着いてきた今年、春から夏にかけて観光のベストシーズンを迎える北海道旅行を計画している方も、少なくないでしょう。
もし、旭川周辺など道東に行く予定の方は、ぜひ、アイスパビリオンへ。帆苅さんの言う通り、子どもだましではなく、大人も驚嘆するようなオンリーワンの体験ができます。そして旅を終えた後、「マイナス41度の世界」を味わったという自慢話(笑)もできます。
僕は北海道が大好きなので、いずれ家族で再訪したいと思います。
稀人ハンターの旅はまだまだ続く――。
ADDRESS
北海道アイスパビリオン
北海道上川郡上川町栄町40番地
http://icepavilion.com/