フォトグラファーのむーちょこと、武藤奈緒美です。
1月の会津(福島)、横手(秋田)、十日町(新潟)という豪雪地帯への取材旅三部作、最後は十日町で見聞きしたことをお届けします。さすがの雪国でも4月となれば春の気配が感じられる頃でしょうか。
十日町と言えば、きもの好きな人には豪雪地帯以前に織物の街としてまず知られているかもしれません。かくいうわたしもそのひとりです。
雪に埋もれ外仕事ができなくなる冬の家内仕事としてきもの産業が発達したのか。かの地は織物のみならず染物も、とにかくありとあらゆるジャンルのきものを生産しています。わたしはその中でもとりわけ十日町紬が好きです。ほこほことした風合いで身体をふわっと包みこむ、とても軽やかで暖かい絹織物です。
そんな一辺倒な事前知識だけで訪れた雪国十日町。
三階建てで二階に玄関がある家。二階の屋根から三階の屋根へはしごがかかっている家。かまぼこ型の駐車場。急勾配の屋根。
雪国はそもそもの住まいの形態から違っていました。冬場の暮らしを中心に設計されているようです。先に訪れた同じく豪雪地帯の会津や横手でも見かけなかった住まいの形。雪質が違うのだと伺いました。十日町の雪は水分が多くて重たいと。
夜に雪かき、出勤前に雪かき。かいた雪は家の前にある融雪溝にどんどん突っ込んでは流す。
夏は暑すぎず冬は寒すぎず、一年を通して気候負荷の少ない太平洋沿いの街で育ったわたしには、十日町の冬の暮らしは過酷に見えました。
そして雪かき効果なのでしょうか。老いも若きも体型のととのった人ばかり見かけた気がします。
雪かきした後の朝ごはん、間違いなく美味しいはず。しかも隣が南魚沼市。魚沼産コシヒカリのポスターや幟をあちこちで見かけました。ここではそれがふだんの味なのだろうなあ。夜の雪かきの後は日本酒呑みつつ鍋をつつくとかね。カロリーの摂取と消耗が雪かきによっていいバランスで保たれているにちがいないなどと一人合点しながら、凍った道で滑るまいと慎重に足を運ぶ。その横を颯爽と走り抜ける人に何度も出くわしました。この道で、この雪の中でランニング!雪国暮らしは足腰や体幹をおのずと強化させるのでしょうか。
取材では、登校する子どもたちを撮りました。タクシーの運転手がのぼれないかもと躊躇する坂の上で、雪しか写らないんじゃ…というくらい降っている、いや、吹雪いているって言うよねこれ…な天候の中、さながら笠地蔵のように雪の中に佇んで。膝まで雪があって動き回れない。
防寒着で身を包んでいるとはいえ小柄な彼らが、こんな雪降りしきる中負けずに坂道をのぼってくる。なんてけなげなの・・・!とレンズをのぞいていましたが、日常で見かける子どもたちの登校となんら変わりません。隣にちょっかいを出す子、列からはみ出す子、気が散っている子・・・歌でも聞こえてきそう。通り過ぎていく彼らは元気だし楽しそうだし、わっしわっしと歩いていく足取りは力強くさえありました。過酷な登校風景に見えるけど、これが彼らの冬の日常。
登校風景を撮った翌日の朝、雪はすでに止んでいて見事な青空が広がりました。雪が一面に積もった校庭はスキー場の如し・・・スキー授業の撮影です。
体育館の横からクロスカントリー用のスキー板をはいた子どもたちが次々と飛び出してきます。一番目の子は素人目にも抜群に滑りが上手く、地元のスキー大会で2位を獲ったと誇らしげに教えてくれました。
どこから撮るのがベストか彼らの動線から判断し、コース途中に陣取って滑ってくる彼らを待ち構えることにしたのですが、陣取ろうと思っている場所に辿り着くまでが一仕事でした。歩くたび足がずぼっと雪に埋まる、一歩が重い・・・。その横をしゅっしゅっと滑り抜けていく彼ら。か、カッコいいぞ、君らめちゃめちゃカッコいい!雪まみれになりながら夢中で撮りまくりました。
滞在中にたまたま入った店のご夫婦が十日町に移住してきた方で、「ここでは『今年は雪が少なくて楽だね』なんて言えないの。重機を使っての雪かきがここの冬の仕事だから。雪が降らないと食いっぱぐれる」と話してくれました。雪が降るから回っているんです、と。雪が少なかったらスキー場の商売上がったりだよなと思ったことはあったけれど、雪を中心に回る暮らしというものをこれまで考えたことがありませんでした。
この十日町の取材は小学生の授業で使う副読本用に掲載するためのものでしたが、子どものための本の仕事でたくさんの知らなかったことに出くわし、いい歳して知らないことばっかりだと実感しまくったのでした。自分の目で見ること。そして感じ考えること。まだまだ肝に銘じてゆこうと思います。